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植物受精卵の微小管バンド移動の仕組みを解明 ~エージェントモデルで読み解く過剰応答能と複数の秩序化原理~

植物受精卵の微小管バンド移動の仕組みを解明 ~エージェントモデルで読み解く過剰応答能と複数の秩序化原理~

2025.07.30 10:00

概要

 植物の茎と根を結ぶ上下軸(体軸)は,受精卵期の異方的な先端成長(1)とその後の上下不等分裂によって決まると考えられています(図1A).シロイヌナズナにおいて,受精卵の異方成長の際に,細胞の表層微小管が先端付近に円環状のバンド構造を形成し,成長に伴って細胞先端側へバンドが移動することが,実験から観察できていました(図1B).しかし,どのような仕組みで多数の微小管が協調あるいは競合して配向秩序化(2)しバンド構造を形成し,かつ移動を達成するのかは未解明でした. 
 本研究では,秋田県立大学の野々山朋信博士研究員および津川暁助教らと東北大学の植田美那子教授らが協働し,顕微鏡画像から微小管バンド幅とバンド移動速度を定量化しました. この定量データに基づいて,微小管エージェントモデル(3)を構築し,微小管の配向を変化させる方向誘因領域に対して微小管の応答能(4)や微小管バンド移動の必要条件を定量的に示しました.類似の先端成長を示す根毛細胞などでは成長が速すぎるためにバンドが形成されない可能性が示唆されました.
 これらの知見により,表層微小管に代表される細胞骨格と細胞形態の関係が明らかになるばかりでなく,方向誘引により繊維バンド構造が集積するような繊維強化材料などの設計や製造への応用も期待されます.
 

発表のポイント

  1. シロイヌナズナの受精卵が異方成長する際に形成される微小管バンド構造とその移動現象の仕組みを,数値シミュレーションによって定量的に明らかにしました.
  2. 微小管の配向を変化させる方向誘因領域よりも微小管バンドが幅広く形成されることや,微小管がバンドを形成する際に異なる2つの仕組みがあり得ることを示しました.
  3. これらの数値シミュレーション結果は,微繊維の配向形成やその移動を制御できる可能性を示しており,繊維強化材料の設計などへの応用が期待されます.
 
 
図1:受精卵の異方成長期に形成される微小管バンド構造とその移動現象
(A)被子植物(シロイヌナズナ)における受精卵は一方向的に異方的に伸長することで個体の上下軸を作る.胚珠の中にある受精卵が異方成長し上下不等分裂することで個体の上下軸が決まると考えられている.(B)顕微鏡によるシロイヌナズナの受精卵の伸長を撮影した画像.時間経過とともに微小管が円環バンド構造を形成し,細胞先端側へ移動する(白).

 
 
用語解説
(1)先端成長
細胞の先端表面のみが伸展する成長様式.植物の根毛や花粉管などでよく見られる.
(2)配向秩序化
数多くの分子の向き(配向)が時間経過とともに同じ向きに揃うことを指す.
(3)エージェントモデル
多数の因子やエージェントがあるルールによって動きを変えたときに全体の振る舞いを調べる計算手法.例えば,道路網において多数の車が動き,複数の車が目的地までたどり着く時間を調べる方法などがある.
(4)微小管の応答能
微小管が外部刺激に対して伸長速度や向きを変える度合いを指す.
 
 
成果掲載誌
 本研究成果は,国際学術誌 Scientific Reports 誌に令和7年7月28日午前10:00(グリニッジ標準時,日本時間JST 18:00)に掲載されました.
論文タイトル:Agent-based Simulation of Cortical Microtubule Band Movement in Arabidopsis Zygotes (シロイヌナズナ受精卵の表層微小管バンド移動現象のエージェントシミュレーション)
著者:Tomonobu Nonoyama,Zichen Kang,Hikari Matsumoto,Sakumi Nakagawa,Minako Ueda,Satoru Tsugawa
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-025-11078-8
 
 
 
 
関連リンク
 
 
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 植田美那子
TEL: 022-795-6713
Email: minako.ueda.e7(at)tohoku.ac.jp
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp