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植物の生殖細胞を生きたまま可視化する方法を開発〜さまざまな植物の受精卵や胚を簡便かつ高精細に観察できる〜

植物の生殖細胞を生きたまま可視化する方法を開発〜さまざまな植物の受精卵や胚を簡便かつ高精細に観察できる〜

2025.11.18 13:00

発表のポイント

  • 細胞膜を光らせる色素を用いて、植物組織の奥深くに隠れた生殖細胞を、生きたまま簡単に可視化する方法を確立した。
  • 形質転換体を作らなくても、初期胚のかたち作りの様子を鮮明に追跡することが可能になった。
  • 被子植物だけでなく、コケやシダといった多様な植物において、生きた生殖細胞の観察を実現する汎用的な手法である。
     

概要

 植物の受精や胚は、花や種子の奥深くに隠れているため、これまで受精前後の変化や、胚が作られる様子を生きたまま観察するのは非常に困難でした。本研究では、細胞膜を特異的に光らせる蛍光色素を活用し、受精前の卵細胞や受精卵、初期胚の輪郭を鮮明に捉えることのできる方法を確立しました。この方法では、生殖細胞を含む種子や母組織をまるごと観察することができ、深部観察に適した顕微鏡と組み合わせることで、初期胚が細胞分裂する様子など、生きたままの動態を捉えることが可能になりました。また、遺伝子導入を必要としないため、モデル植物であるシロイヌナズナ(被子植物)だけでなく、コケ植物やシダ植物など、広範な植物種に適用可能です。この方法論を、さまざまな突然変異体や阻害剤と組み合わせることで、分子機構の解明に向けた研究が加速すると考えられます。また、農学的・進化的に重要な植物種、特に、いまだ遺伝子組み換え技術が確立されていないものに活用することで、多角的な応用研究が進むことも期待されます。
 本研究成果はPlant Methods誌に2025年11月17日付で掲載されました。
 
 
【詳細な説明】
研究の背景
 植物には、花や葉、根や茎など、さまざまな器官があります。それらのかたち作りの原点となっているのは「最初の細胞」である受精卵です。したがって、父母の細胞が融合(受精)して受精卵となる生殖過程や、受精卵が規則的な細胞分裂を経て胚へと発生する過程で「何が起こるか」を可視化することが重要です。しかし、植物の生殖や胚発生は花や種子といった母組織の奥深く進行するので、生きた動態を捉えるには特殊な可視化マーカーを形質転換する必要がありました。これは多大な手間と時間を要するだけでなく、いまだ遺伝子組換え技術が確立されていない非モデル植物には適用できない手法です。また、一般的な植物細胞は硬い細胞壁に覆われるので、固定した組織の細胞壁を染色して観察することができますが、細胞膜同士の融合によって受精する生殖細胞は細胞壁を欠くので、この方法も使えません。このような制約から、植物における生殖や胚発生の動態はこれまでほとんど分かっていませんでした。
 
 
今回の取り組み
 東北大学大学院生命科学研究科の花木優河氏と多田圭吾氏(ともに修士2年生)、中村聡太氏(修士卒業生)、中川朔未氏(博士1年生)、鈴木秀政助教、松本光梨助教、木全祐資助教、植田美那子教授、名古屋大学の佐藤良勝博士らの研究グループは、細胞膜の特異的な蛍光色素であるFM4-64で染色した若い種子を顕微鏡下で培養することで、シロイヌナズナの卵細胞や受精卵、初期胚の細胞輪郭を生きたまま高精細に可視化することに成功しました。この手法と、深部観察に適した2光子励起顕微鏡とを組み合わせたライブイメージングによって、受精卵が胚発生を開始する過程の定量的な時系列解析も可能となりました。
 さらに、この方法は被子植物だけでなく、ゼニゴケ(コケ植物)やリチャードミズワラビ(シダ植物)の生きた生殖細胞の観察にも有効であり、受精前後での細胞形状の変化や、初期胚の細胞分裂パターンを鮮明に捉えられるようになりました。
したがって本研究は、遺伝子組み換え株を作出する必要なく、広範な植物種における生殖や発生過程を時空間的・定量的に解析する簡便かつ高精細な観察ツールを提供するものです。
 
 
今後の展開
 この方法論では、遺伝子組換えに要する長い準備期間を経ずにライブイメージング解析を実現できるので、多様な突然変異体や阻害剤を駆使した攪乱実験と組み合わせることで、生殖過程や胚発生の研究が格段に加速します。また、いまだ遺伝子組み換え技術が確立されていない非モデル植物の解析に非常に有効です。特に、進化の過程で多様化した生殖戦略の比較や、農業的に有用な植物種の交配法の確立といったさまざまな研究において、基盤的なツールとなると考えられます。これらの植物種においても、顕微鏡下での生殖組織の培養法が確立されれば、本研究の可視化法と組み合わせることで、形質転換を要しない高精細ライブイメージングも可能になるので、さらなる応用研究への展開が期待されます。
 
 
図. 本研究で開発した生きた生殖組織の簡便な観察法の概略図(上段左)。FM4-64色素による細胞輪郭の可視化と、顕微鏡下での培養法の組み合わせにより、胚発生のライブイメージングが可能になった(上段右)。下段はさまざまな植物種の生殖組織をFM4-64染色したもの。卵細胞あるいは受精卵をオレンジ括弧で示す。スケールバーは10マイクロメートル(µm)を表す。
 
【謝辞】
本研究は下記の支援を受けて行われました。
日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業
研究活動スタート支援(JP21K20650・JP21K20649)
若手研究(JP22K15135・JP23K14204・JP24K18135)
学術変革領域研究(A)(JP25H01809)
基盤研究(B)(JP23H02494)
特別研究員奨励費(JP25KJ0540)
国際先導研究「植物生殖の鍵分子ネットワーク」(JP22K21352)
新学術領域「先端バイオイメージング支援」(JP16H06280)
 
科学技術振興機構(JST)
CREST(JPMJCR2121)
 
植物科学最先端研究拠点ネットワーク
 
財団助成金
サントリー生命科学財団(SunRiSE)
東レ科学振興会(20-6102)
稲盛財団
山田科学振興財団
 
 
【論文情報】
タイトル:A simple and versatile plasma membrane staining method for visualizing living cell morphology in reproductive tissues across diverse plant species
著者:Yuga Hanaki, Hidemasa Suzuki, Sohta Nakamura, Sakumi Nakagawa, Keigo Tada, Hikari Matsumoto, Yusuke Kimata, Yoshikatsu Sato and Minako Ueda*
*責任著者:東北大学大学院生命科学研究科 教授 植田美那子
筆頭著者:東北大学大学院生命科学研究科 花木優河
掲載誌:Plant Methods
DOI:10.1186/s13007-025-01465-7
 
【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
教授 植田美那子
TEL: 022-795-6713
Email: minako.ueda.e7(at)tohoku.ac.jp
 
 
(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
高橋さやか
TEL: 022-217-6193
Email: lifsci-pr(at)grp.tohoku.ac.jp