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研究

#03 衛藤貫さん

Dr. KAN ETHO
 
H30年度総長賞を受賞された衛藤貫さん(膜輸送機構解析分野出身)のインタビューをお送りいたします。(2019年4月掲載)
 

研究テーマ

 私たちの体を構成する細胞の中には、特殊な機能を持った小器官”オルガネラ”が複数種存在しています。各々のオルガネラは、栄養素の取り込みやエネルギーの産生など、細胞の恒常性を維持する役割を担うと考えられています。私は、オルガネラの中でも、生物学的意義が未だに解明されていない”管状エンドソーム”に着目して研究を行ってきました。管状エンドソームの存在意義を明らかにするためには、管状エンドソームを形成できない細胞を作製し、管状エンドソームを失うことで細胞にどのような変化が生じるかを解析する必要があります。しかし、これまで管状エンドソームの形成機構は十分に明らかでなかったため、そのような解析は困難でした。そこで私は、管状エンドソーム形成の必須制御因子の同定とその分子機構の解明を目指しました。本研究では、管状エンドソームの必須制御因子として小胞輸送の制御因子Rab10を同定することに成功し、Rab10がその新規結合タンパク質KIF13のモーター活性を介して管状エンドソームの形成を制御することを突き止めました。

生命科学研究科での生活で印象に残っていること

 日々のディスカッションは、かけがえのない時間だったと感じます。振り返ると、研究テーマに関してだけでなく、科学研究や教育の在り方、研究者としての心構え、など挙げればキリがないほど様々な議論をさせて頂きました。この経験を通して感じたのは、人によって物事の捉え方や価値観は異なり、皆それぞれ異なる哲学に基づいて研究に臨んでいるということです。同じテーマについて研究を行っている人たちでも研究の最終目標は異なる場合がありますし、また同様に教育熱心な先生でもそれぞれ優先順位は異なり、同じ戦略で学生を指導するとは限りません。これは各々の価値観を軸にロジックを組み立てた結果であり、一概にどちらが正しい間違っているという話ではありません。このような多種多様な価値観を持つ人々との議論は、目から鱗が落ちるような思いをする瞬間が数多くあり、新しい視点で物事を見るきっかけになりました。また、様々な価値観を踏まえた上で、今後、自分はどのような科学者になりたいのかを見つめ直すこともできたので貴重な時間だったと感じます。議論に付き合ってくださった皆様には、大変感謝しております。

将来の目標

 出来るだけ早く独立して、自分の研究室を持つことが目標の一つです。私は研究のプロセスは全て楽しく感じますが、とりわけ、前半の研究テーマのデザインに関わる過程はワクワクする魅力的なステップに感じます。ですので、自分のアイデアを存分に試すことができるポジションにつき、科学研究を最大限に楽しむことができる未来を夢見ています。また、研究を純粋に楽しむことができる環境作りや一般の方々に研究成果を伝えるアウトリーチ活動にも積極的に取り組みたいと考えています。より多くの方々と科学の面白さを共有できる未来を目指して精進していきたいです。

後輩へのメッセージ

 目先の実験結果に一喜一憂するのではなく、研究のプロセスを楽しんでもらいたいです。特に研究を始めたばかりの時期は、ただ仮説に見合うデータを得ることだけを目的に実験に取り組み、欲しい結果が出た時だけ喜ぶという状況になりがちです。もちろん仮説を支持するデータを得られた時は嬉しく感じるものですが、科学研究の面白さはそこだけではないですし、そもそも仮説は外れることの方が多いので、他に面白さを見出すことができなければ長続きはしないと思います。自分は何を知りたいのか、それを知るためにはどのような手法を用いて実験する必要があるのか、その実験により知りたいものが得られる蓋然性はあるのか。一つ一つロジックを積み上げ、実験結果に合わせて適宜修正を行い、ロジックの穴を埋めることで真相を見出していく。この真相を究明する探偵かのような思考過程は、科学研究における大きな魅力の一つだと私は考えています。研究の過程には他にも数多くの面白さが詰まっているので、自分なりに面白いと感じる過程を見出してもらえれば、より豊かな研究生活が送れるのではないでしょうか。楽しく健康的に研究生活を送れることを、陰ながら応援しています。

PROFILE

衛藤 貫 

2014年3月 東北大学 理学部 卒業
2015年4月 - 2016年3月 東北大学学際高等研究教育院 修士研究教育院生
2016年3月 東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程前期2年の課程 修了
(修士(生命科学))
生命科学研究科 研究科長賞 受賞
2016年4月 - 2019年3月 日本学術振興会 特別研究員 (DC1)
2016年4月 - 2019年3月 東北大学 学際高等研究教育院 博士研究教育院生
2019年3月
東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程後期3年の課程 修了
(博士(生命科学))
東北大学 総長賞 受賞
生命科学研究科 研究科長賞 受賞
青葉理学振興会賞 受賞
2019年4月 - 現在 熊本大学 発生医学研究所 ポスドク
2019年4月 - 現在 日本学術振興会 特別研究員 (PD)