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研究

#05 佐藤大気さん

Dr. Daiki Sato
 
2020年度総長賞を受賞された佐藤大気さん(進化生物分野出身)のインタビューをお送りいたします。(2021年4月掲載)
 

研究テーマ

 私たち人間や動物の個性や性格、あるいは精神疾患に関わる遺伝的変異の進化について研究してきました。日本語には十人十色という四字熟語があるように、私たちは個性の存在を当然と捉えている節がありますが、個性の進化メカニズムは明らかではありません。心理学の分野では外向性や誠実性、神経質傾向などの性格因子と呼ばれる言葉が用いられますが、これらの特性はうつや統合失調症といった精神疾患とも関連していることが示されています。すなわち、個性や性格の進化的な起源・維持機構の解明は、精神疾患の根本的な理解にも役立つ可能性があります。私は進化的な視点から性格因子や精神疾患に関わる遺伝子に着目し、小胞モノアミントランスポーター1(VMAT1)遺伝子の配列が人類の進化過程で変化してきたことを示しました。また、分子生物学や神経科学の手法を用いて、この遺伝子に生じた変異がタンパク質の機能や下流の遺伝子発現、神経活動の変化を通して、不安やうつといったヒトの個性の進化に影響した可能性を明らかにしました。

生命科学研究科での生活で印象に残っていること

 生命科学研究科に在籍していた6年間には非常に多くの思い出がありますが、研究に関すること以外の部分が強く印象に残っています(すみません)。特に、研究室のメンバーで毎週行なっていたランニングは研究生活の重要な一部でした。主に生物棟から青葉山のゴルフ場までの往復で、新キャンパスができたときは新たなルートを開拓したり、たまに八木山動物園まで走ったり。負けず嫌いな人が多く、一緒に走ると最後はタイムアタックになることも多かったです。当初は健康維持程度のつもりでしたが、いつしかマラソン大会に出場するようになり、また現在はコロナ禍の運動不足も手伝い、むしろ走らないと健康に支障をきたすようになりました。ほどほどに走りたいものです。しかし考えてみると、マラソンというのは、どんなにしんどくても、歩を止めない限りいつかはゴールに辿りつくものです。研究も同じで、足(手)を止めないこと、それを意識して走り続けていたような気がします。あ、研究の話になってしまいました。

将来の目標

 研究者として、自分の研究室を持つことは一つの目標です。私はとりわけ、これから行なう研究を計画している段階がワクワクしますし、やりたいことはたくさんあります。しかし残念ながら私の体は一つしかなく、私が思考した実験を自動で行なってくれるロボットも持っていません。なので、自分が思う研究の面白さをできる限り多くの人と共有し、一緒に研究を進める仲間を増やしていけたらと日々考えています。一方で、アカデミックの研究者を取り巻く環境は依然として厳しく、スウェーデンの研究室で過ごした日々をたまに思い出しては、自分は今どこで何をすべきなのか、悩む毎日でもあります。幸い、私には現在の居場所があり、やるべき研究があり、サポートしてくれる仲間がいます。一つ一つ、目の前の課題をクリアしながら、目標に近づけるよう精進したいと思います。

後輩へのメッセージ

 私は、特に博士課程以降、意識してきたことが二つあります。一つは、上にも書きましたが、手を止めないことです。とりあえずやってみる。分からなければ周りの人に(あるいは海外の著者にメールで)聞く。とにかく無為に時間が過ぎないようにする。私はあまり器用な方でなく、初めてやることはたいてい失敗しましたが、自分の手を動かして初めて見えてくるものも多くあったと感じています。もう一つ、こちらはまだまだできていないと感じますが、感謝の気持ちを忘れないことです。私の研究は当時の研究室のテーマとはかなり離れていましたが、学部生の頃から私に自由に研究をさせてくれた指導教員の河田先生や、サポートしてくださった研究室や共同研究者の皆さまには本当に感謝しています。新たな発見は誰かと共有すると喜びも増しますし、研究に伴う困難の多くは誰かに相談すると解決することがほとんどです。コロナ禍で対面のコミュニケーションが難しい昨今ですが、周りの人との相互作用を大切に、楽しい大学生活を送ってもらえればと思います。

PROFILE

佐藤 大気 

2015年3月 東北大学 理学部 生物学科 卒業
2017年4月 - 2021年3月 東北大学 データ科学国際共同大学院プログラム生
2017年9月
東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程前期2年の課程 修了
(修士(生命科学))
2019年3月 - 2019年9月 ウプサラ大学 Leif Andersson Research Group 訪問博士学生
2020年4月 - 2021年3月 日本学術振興会 特別研究員 (DC2)
2021年3月 東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程後期3年の課程 修了
(博士(生命科学))
2021年4月 - 現在 千葉大学大学院 理学研究院 日本学術振興会 特別研究員(PD)
   
主な受賞歴など
2021年3月 青葉理学振興会賞
2021年3月 東北大学総長賞