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研究

#06 朽津芳彦さん

Dr. Yoshihiko Kuchitsu
 
2021年度総長賞を受賞された朽津芳彦さん(細胞小器官疾患学分野出身)のインタビューをお送りいたします。(2022年5月掲載)
 

研究テーマ

 私は、細胞内でのタンパク質分解の仕組みについて研究しています。私たちの体は、約30兆個の細胞から成り立っています。一つ一つの細胞の大きさは直径約0.01mm程ですが、その中では人間社会のように複雑な営みが繰り広げられています。その営みを支えているのが、約2万種類ものタンパク質です。タンパク質は多彩な機能を果たしていますが、古くなり機能しなくなったり、不要になったりすると、細胞内のリサイクル工場である「リソソーム」という空間へと運ばれ、分解されます。
  私は、ウイルス感染の時にはたらくSTINGというタンパク質がリソソームで分解される仕組みについて研究を行いました。超解像度顕微鏡や電子顕微鏡を用いて、STINGとリソソームの動態を観察した結果、リソソームが細胞内を動き回り、直接STINGを取り込んで分解する瞬間を捉えることに成功しました。これまで、リソソームはゴミが一方的に運び込まれる「リサイクル工場」と考えられてきましたが、「ゴミ収集車」のように細胞内を動き回ってゴミを集めていることがわかりました。

生命科学研究科での生活で印象に残っていること

 生命科学研究科での研究生活では、「自分が世界で初めて見てしまった!」という感動を何度か味わうことができました。実際のところは、世紀の大発見かと思った結果は勘違いのことが多く、失敗した実験や思い通りにならなかった結果の方が多かったはずなのですが、あまり記憶には残っていません。むしろ記憶に残っているのは、先生や仲間と各々の研究テーマの枠を越えて様々な課題についてディスカッションし、酒を酌み交わした思い出です。研究や研究以外のことに対して、それぞれの研究者が論理的に組み立てた価値観を知ることができたのは私にとってかけがえのない財産となりました。飲み過ぎて記憶に残っていないものも多々あるような気がしますが。

将来の目標

 このインタビューをお受けしたとき、私は目標というものをあまり持たない人間なので、友人に相談したところ、これまで没頭して取り組んだことを振り返ってみてはどうかと言われました。アドバイス通りに振り返ると、幼稚園の時は絵を描くことが好きで、絵描きになりたいと言っていたようです。中学・高校・大学では、音楽、特に合唱に没頭しました。大学院では、研究に多くの時間をかけ、自分の成果を学術論文として表現することの楽しさを学びました。
 「人間万事塞翁が馬」という諺がありますが、人生における幸不幸を予測するのは難しいという考えから、目標というものをあまり意識せず、その時その瞬間に最善と思う道を進んできたのでしょう。これまで集中したことの共通点を考えてみると、自分の作品として表現することには興味がありそうです。
  将来何をしているのかは全く想像ができませんが、「塞翁が馬」精神を大切にすること、そして目の前の物事を愉しんで生きていくこと。この2つを、目標に代わる指針として生きていこうと思っています。

後輩へのメッセージ

 「イチローは毎朝カレーを食べている」という話を聞いたことがある人は少なくないと思います。しかしこの話を聞いて、「野球が上手くなりたいから毎日カレーを食べなければ!」と思い悩む人は現実にはあまりいないのではないでしょうか。
 以前の私は、それに近いような考え方をして悩み、立ち止まってしまうことが多々ありました。大学院での研究生活を通じて、今では少しは論理的に考える癖がついたので、日々の生活においても出来事とその関係性を考えて行動するようになりました。
 皆さんも研究や進路について様々なことを見聞きし、思い悩むことがあると思いますが、事実と因果関係を整理して考えてみると自ずと必要な行動(研究であれば必要な実験)が決まってくると思います。ちなみに、イチローは「今はカレーを食べるのをやめて毎朝そうめんを食べている」そうです。この噂の真偽、野球の上達との関係性は、ぜひ自分で調べ、考察してみてください。

PROFILE

朽津 芳彦 

2012年3月 渋谷教育学園幕張高等学校 卒業
2017年3月 東北大学 理学部 生物学科 卒業
2018年4月 - 2019年3月 東北大学学際高等研究教育院 修士研究教育院生
2019年3月
東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程前期2年の課程 修了
(修士(生命科学))
2019年4月 - 2022年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2022年3月 東北大学大学院 生命科学研究科 博士課程後期3年の課程 修了
(博士(生命科学))
2022年4月 - 現在 東北大学大学院 生命科学研究科 特任研究員
受賞歴
2019年3月 東北大学大学院 生命科学研究科 研究科長賞 受賞
2022年3月 東北大学 総長賞 受賞
2022年3月 東北大学大学院 生命科学研究科 研究科長賞 受賞
2022年3月 青葉理学振興会賞 受賞