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研究分野

分子化学生物学専攻 :
協力教員

研究

レドックス制御 分野

レドックス制御 分野

 すべての生物は環境との相互作用の中でその生命を維持しています。多くの環境要因は、生体の酸化還元反応に影響し、生体分子の変化をもたらし、加齢がもたらす様々な機能低下状態や病的状態につながると考えられています。こうした中で老化の本質が何かと考えた場合、私達は環境応答不全とそれに伴う炎症の持続であるとの仮説をもっています。これらをもたらす分子機構を明らかにするため、酸化ストレス応答の鍵因子である転写因子NRF2やプロテオスタシスの鍵因子である転写因子NRF1による遺伝子発現制御・エピゲノム制御とレドックス代謝制御の切り口から、細胞の核内のイベントにこだわって研究を行っています。そして私達の最終目標は、ヒトの健康長寿の実現に貢献することです。 

 環境要因とのかかわり合いで鋭敏な変化を受ける生体の酸化還元反応では、イオウ原子がとても重要な役割を果たしています。KEAP1-NRF2制御系は、イオウ原子の反応性を利用したレドックスセンサー分子であるKEAP1と、イオウ代謝のマスター制御因子であるNRF2から構成される重要な生体防御機構で、線虫やショウジョウバエを含む多くの生物の恒常性維持機構を支えています。私達の分野では、加齢に伴い発症頻度が増加するがんや慢性炎症などの疾患の予防・治療に貢献すべく、KEAP1-NRF2制御系を主軸として、生体のレドックス制御における新しい基本原理の発見を目指して研究を展開しています。主な研究課題は以下の通りです。

 (1) レドックス応答性転写因子NRF2による遺伝子発現制御
 (2) レドックス・インバランスがもたらす個体老化の分子機構
 (3) 運動がもたらすレドックス応答と抗老化作用の分子機構
 (4) NRF2依存性がんにおけるイオウ代謝とがん悪性化機構
 (5) NRF2によるミトコンドリア機能制御とエネルギー代謝

特色・実績

 私達は生化学や分子生物学、細胞生物学からのアプローチに加えて、遺伝子改変マウスを多用して、統合された動物個体において本質的な現象を追究する、という姿勢を大事にしています。
 NRF2を含むCNC因子とSmall MAF (sMAF)因子の2量体による転写制御機構を解析し、それが生体の恒常性維持機構の中核をなしていることを明らかにしてきました。生化学的な解析や、遺伝子改変マウスの解析から、CNC-sMAFが、巨核球の成熟、神経細胞の恒常性維持、酸化ストレス応答など、細胞の分化と機能発現において重要な貢献をしていること、すなわち、CNC-sMAF2量体が生体の恒常性維持を制御する新たな転写制御ネットワークを形成していることを明らかにしてきました。
 また、がん細胞においてNRF2が異常活性化していると予後が極めて不良であるという知見を得て、がん悪性化におけるNRF2の役割の解析を行い、NRF2が、グルコースやグルタミン代謝に関わる遺伝子を直接活性化して増殖に有利な代謝環境を創出すること、そして、このようなNRF2の作用は増殖シグナルの活性化により増強されることを発見しました。これは、ストレス応答機構による細胞内代謝経路の改変が、がん悪性化の基盤になっているという新しい概念を提唱するものです。
 一方、NRF2の活性化が、自己免疫疾患の改善、騒音性難聴の予防などに有効であることを示し、NRF2が加齢に伴い増加する慢性炎症の改善や、酸化ストレスを基盤とする病態の改善に重要な鍵分子であることを報告しました。現在は、NRF2がもたらす抗老化作用の解析をすすめています。

 

最近の代表的な論文

  1. Mitsuishi Y, Taguchi K, Kawatani Y, Shibata T, Nukiwa T, Aburatani H, Yamamoto M, Motohashi H.  Nrf2 redirects glucose and glutamine into anabolic pathways in metabolic reprogramming. Cancer Cell 103,760-766, 2012.
  2. Shirasaki K, Taguchi K, Unno M, Motohashi H, Yamamoto M.  Nrf2 promotes compensatory liver hypertrophy after portal vein branch ligation in mice. Hepatology 59, 2371-2382, 2014.
  3. Sekine H, Okazaki K, Ota N, Shima H, Katoh Y, Suzuki N, Igarashi K, Ito M, Motohashi H, Yamamoto M.  The Mediator subunit MED16 transduces NRF2-activating signals into antioxidant gene expression. Mol Cell Biol 36, 407-420, 2016.
  4. Honkura Y, Matsuo H, Murakami S, Sakiyama M, Mizutari K, Shiotani A, Yamamoto M, Morita I, Shinomiya N, Kawase T, Katori Y, Motohashi H.  NRF2 is a key target for prevention of noise-induced hearing loss by reducing oxidative damage of cochlea. Sci Rep 6, 19329, 2016.
  5. Kobayashi EH, Suzuki T, Funayama R, Nagashima T, Hayashi M, Sekine H, Tanaka N, Moriguchi T, Motohashi H, Nakayama K, Yamamoto M.  NRF2 suppresses macrophage inflammatory response by blocking proinflammatory cytokine transcription. Nat Commun 7, 11624, 2016.
  6. Suzuki T, Murakami S, Biswal SS, Sakaguchi S, Harigae H, Yamamoto M, Motohashi H. Systemic activation of NRF2 alleviates lethal autoimmune inflammation in Scurfy mice. Mol Cell Biol 2017 Jul 14;37(15). pii: e00063-17.
  7. Kitamura H, Onodera Y, Murakami S, Suzuki T, Motohashi H. IL-11 contribution to tumorigenesis in an NRF2 addiction cancer model. Oncogene 36, 6315-6324, 2017.
  8. Murakami S, Suzuki T, Harigae H, Romeo PH, Yamamoto M, Motohashi H. NRF2 activation impairs quiescence and bone marrow reconstitution capacity of hematopoietic stem cells. Mol Cell Biol. 2017 Jul 3. pii: MCB.00086-17.
  9. Akaike T, Ida T, Wei FY, Nishida M, Kumagai Y, Alam MM, Ihara H, Sawa T, Matsunaga T, Kasamatsu S, Nishimura A, Morita M, Tomizawa K, Nishimura A, Watanabe S, Inaba K, Shima H, Tanuma N, Jung M, Fujii S, Watanabe Y, Ohmuraya M, Nagy P, Feelisch M, Fukuto JM, Motohashi H.  Cysteinyl-tRNA synthetase governs cysteine polysulfidation and mitochondrial bioenergetics.  Nat Commun 8, 1177, 2017.
研究室URL https://sites.google.com/view/motohashi-lab/home

教員紹介

教授 本橋 ほづみ
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レドックス制御を担う転写制御機構と、生体防御メカニズムの強化による抗老化作用