生命構造化学 分野
複雑な海洋天然物の全合成と構造および機能解析
生物の生産する二次代謝産物(天然物)は、歴史的に医薬品開発のリード化合物として重要な役割を果たしてきました。近年では、海洋生物から特異な化学構造を持ち、新たな作用メカニズムで強力な生物活性を示す天然物(海洋天然物)が数多く発見されています。これら海洋天然物は有機合成のチャレンジングな標的分子であるばかりでなく、新たな医農薬の候補化合物やケミカルバイオロジー研究の分子プローブとして大きな期待が寄せられています。しかし、その多くは自然界から極微量しか得られないために、詳細な化合物の評価や作用メカニズムの解析において化学合成(全合成)による物質供給の果たす役割は非常に重要になっています。また、機器分析の技術が目覚ましく発展した現在においても、複雑な天然物の立体配置の確認や決定において天然物合成の重要性は益々大きくなりつつあります。当分野では、重要な生物活性を示す複雑な海洋天然物と人工類縁体の全合成研究を基盤として、それらの構造および生物機能の解析を行い、生命科学研究・創薬科学への貢献を目指しています。
特色・実績
これまでに,鈴木−宮浦カップリング反応を基盤とする収束的なポリ環状エーテル骨格構築法を独自に開発し,本反応を基盤としてガンビエロール,ギムノシン-A,ブレベナール,ガンビエル酸Aなどの巨大ポリ環状エーテル天然物および類縁体の効率的全合成や立体構造決定を世界に先駆けて達成しています。特に,ガンビエロールの全合成の結果,本化合物が電位依存性カリウムイオンチャネル(Kvチャネル)の特異的な阻害剤であることを初めて明らかにしました。これは、海洋ポリ環状エーテル天然物の標的タンパク質を同定した数少ない研究例の一つです。さらに,系統的な構造活性相関研究の知見を基にして,天然物と同等のKvチャネル阻害活性を示す構造単純化類縁体の創製に成功しています。その他,メタセシス反応を活用した抗腫瘍性マクロリド天然物ネオペルトリドの短段階全合成と構造活性相関による活性発現に必要な構造因子の特定,反応集積化を活用した抗腫瘍性マクロリド・イグジグオリドの効率的全合成と作用機序解析,鈴木−宮浦カップリング反応を利用した海洋毒ポリカバノシドAの全合成,新規ジヒドロピラン合成法を基盤としたHIV-1プロテアーゼ阻害剤ディデムナケタールBの全合成と完全立体構造決定,カイニン酸型グルタミン酸受容体の選択的アゴニスト・ダイシハーベインと人工類縁体の効率的合成と受容体との複合体結晶構造解析(多元研・齋藤研究室との共同研究)などを達成しています。
教員紹介
教授 佐々木 誠
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- 複雑な構造を有し顕著な生物活性を示す海洋天然物の全合成と機能解析
- 天然物を凌駕する人工機能性分子の開発と生命機能解明への応用
- 有機合成を基盤とした複雑天然物の立体構造解析など