分子行動 分野
いくつかの魚類(グッピーやシクリッド)は仲間を見分ける能力があり、他者との関係性に応じて適切な社会行動を選択する。本分野では、このような魚類の高度な認知能力を介した社会適応を可能にする脳の分子・神経的基盤を全容解明し、ヒトを含む哺乳類と比較することで、その進化的起源をたどることを目的にしている。主に分子遺伝学のモデル生物である小型魚類(メダカ)を研究対象にしている。
特色・実績
これまでメダカを用いて群れ行動(PLoS One 2010)、社会的学習(PLoS One 2013)、メスの配偶者選択(Science 2014, eLife 2017)、オスの配偶者防衛行動(PLOS Genetics 2015, Front. Zool. 2016)、同種認知行動(Zool. Sci. 2016)を定量化する行動実験系を独自に確立した。その結果、メダカは視覚で仲間を見分ける能力を持っており、個体認知に基づく高度な社会行動を示すことを発見した。例えば、メスメダカは性行動前に長時間見ていたオスを視覚記憶し、「見知ったオス」を配偶相手として選択し、「見知らぬオス」を拒絶する傾向があることを見出した(Science 2014)。またメスは「顔」でオスを見分けており、ヒトの心理学実験で有名な「倒立顔効果」がメダカでも生じることを発見した(eLife 2017)。さらに遺伝子改変技術と電気生理学的な手法を組み合わせて、その分子神経基盤の一端を解明した(Science 2014, PLOS Genetics 2015)。