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イネCPD光回復酵素における新奇ミトコンドリア移行シグナル配列の同定

イネCPD光回復酵素における新奇ミトコンドリア移行シグナル配列の同定

2014.09.09 08:47

生態システム生命科学専攻 ゲノム継承システム分野

日出間 純

紫外線B(UVB)が誘発するDNA損傷の一つであるシクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)が細胞内DNA上に蓄積すると、植物のみならず生物は、致命的な障害を受けます。生物は、このようなUVBによって誘発されたDNA損傷を修復するために様々な修復機構を有しています。中でも植物の場合は、CPD光回復酵素という修復酵素が太陽光に含まれる青色光を利用して、UVBによって誘発されたCPDを修復しています。このCPD光回復酵素(PHR)は、胎生哺乳類を除く原核生物から真核生物の幅広い種で保有されており、アミノ酸配列の相同性によってClass I型とClass II型に分類されています。高等植物であるイネのPHRはClass II型に属していて、核ゲノムに1コピーでコードされています。PHRの遺伝子は発現後、DNAを保有する全てのオルガネラである核、ミトコンドリア、葉緑体に移行して機能するという、他に類を見ない”triple targeting protein“ であることが見出されました。これらの結果は、この機能は、UVB抵抗性を獲得するため、植物が進化の過程で得たものであることが推察されます。しかしながら、各オルガネラへどのように移行するのか?オルガネラ移行シグナル配列、またその移行のメカニズムは、今日のゲノム情報を利用しても推察することがこれまで出来ませんでした。

  我々は、イネPHRの各オルガネラ輸送に関わるシグナル配列を同定し、そのアミノ酸配列のゲノム比較から、進化の過程で植物はPHRのtriple targeting 機能をいつ、どのように獲得したのかその起源を探ることを目的に解析を進めました。

  これまでの研究から、ミトコンドリアへ移行するタンパク質の大部分は、ミトコンドリアへ移行するためのシグナル配列をN末端側に有していますが、イネのPHRの場合は、全長506アミノ酸の配列の中のC末側、391-401番目にミトコンドリアへの移行シグナル配列が存在していることが分かりました。そしてこの配列は、新奇のアミノ酸 (MHGFMRMYWAK) であることが分かりました。また、このミトコンドリア移行シグナル配列は、基質(CPD)の結合部位近傍にあり、酵素の機能に重要な部位に存在すると同時に、他のミトコンドリア移行タンパク質に存在しない、PHRのみが有する特有の移行シグナル配列であることが判明しました。さらに本研究で同定したミトコンドリア移行シグナル配列を様々な生物種と比較したところ、Class I型のPHRでは保存されておらず、Class II型のPHRにおいてのみ高度に保存されており、進化過程でClass II型に分岐した比較的早い段階で獲得した配列であることが予測され、さらに本ミトコンドリア移行シグナル配列を古細菌の一部が有していたことから、その由来は古細菌にあったことが推測されました。本研究は、単に新奇のミトコンドリア移行シグナル配列を同定しただけでなく、紫外線UVBを含む太陽光の下で生きる植物にとって、“オルガネラDNA損傷の修復”、すなわち“CPD光回復酵素のオルガネラ移行性の獲得”が、生物進化の過程でキーとなっていることを示したと言えます。本研究成果は、国際科学誌「The Plant Journal」に2014年7月31日付けで公開されました。

【論文名】
Takahashi S, Teranishi M, Izumi M, Takahashi M, Takahashi F and Hidema J.
Transport of rice cyclobutane pyrimidine dimer (CPD) photolyase into mitochondria relies on a targeting sequence located in its C-terminal internal region. The Plant Journal 79(6) ; 951-963. 2014

【お問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科
担当 日出間 純 (ひでま じゅん)
電話 022-217-5690
Eメール j-hidema*ige.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか(たかはし さやか)
電話 022-217-6193
Eメール lifsci-pr*ige.tohoku.ac.jp  (*を@に置き換えてください)

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