研究室の目指すもの
脳が極めて優れた情報処理装置であることは誰もが認めるところと思います。我々(脳)には種々の感覚系を介して外界からいろいろな情報(刺激)が入ってきます。それらの刺激にどのように対処するかを刺激に含まれる情報や、すでに記憶している関連情報をもとに我々は思考・判断し、行動します。言語を使った返答も行動の1形態です。その行動に対する外界の反応を評価する過程を経て学習が成立します。脳にはこのほかに「意識や心」の実体をなすという重要な役割があると考えられます。これら脳の高次機能の解明は明らかに21世紀科学の中心的課題の1つです。
さて、高次脳機能の解明を目指す場合にもいろいろな基本戦略と具体的アプローチがあります。我々の立場、基本的な考え方は脳の高次機能を理解するためには脳の機能的構造の理解*が必要であるということです(*understanding
the functional architecture of the brain)。
「機能的構造」の意味するところは広く、機能実現に関係する要素の全てを包含します。その要素とは具体的に
1) 機能局在
2) 機能を支える神経構造
3) 情報表現
4) 情報処理のアルゴリズム
などが考えられます。1)、2)は脳のハードウエア、3)、4)はソフトウエアに関係が深いといえます。1)-4)の項目の解明研究はそれぞれ大変な仕事ですが、多くの研究者の努力により現在、かなりの情報が集積されつつあります。これには近年、いくつかの強力な脳研究用機器が開発され、それが研究に活用されていることも理由の1つと思います。我々はある1つの機能の実現を説明するためには1)-4)を一連のものとして理解する必要があると考えており、かかる取り組みこそ21世紀の脳科学のなすべきことと考えております。我々だけでその実現は困難ですが、その大きな目標の達成をめざす集団の一員として我々は出来る限りの貢献をしたいと考えております。
研究内容
記憶・学習系
海馬及び海馬周辺皮質における情報処理機構の解明
海馬を中心とした神経ネットワーク構造の解明
報酬系
動機づけ学習(報酬を基にした学習)の神経機序の解明
報酬を基にした行動選択の神経機序の解明
報酬系・罰系の脳内ネットワーク動態の解明
運動系
随意運動調節の神経基盤解明への取り組みとその工学的応用
感覚系
嗅覚系におけるニオイ情報処理機構の解明
頭頂連合野における視空間認知の神経機序の解明
実行系・高次認知機能
前頭連合野局所回路の構成と機能の解明
経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた大規模神経ネットワーク動態の解明
サル精神疾患モデルの確立と新規治療法の開発
次世代脳機能解析技術の開発
ウィルスベクターを用いた神経トレーシング法の開発
標的神経細胞選択的なカルシウムイメージング法の開発
プラスミド注入による標的神経細胞標識法と遺伝子発現解析の開発